渡邊直樹・責任編集『宗教と現代がわかる本2007』を読んで


まずはジャケットを見てもらおう。

宗教と現代がわかる本〈2007〉

宗教と現代がわかる本〈2007〉


今年の3月に現在大正大学教授であり、以前は「SPA!」や「週刊アスキー」などの諸誌の編集長を歴任された渡邊先生による一般向け宗教学の本である。
一面真っ赤のジャケットは、現代の宗教事情の危機感を象徴しているものと、推測する。
注意(黄)ではなく警告(赤)なのである。






さすが、メディアを経験してきた先生が編集してきた本とあって、一般がとっつき易い論陣を張っている。
テーマ、レポート、対談、インタビュー等、論客は総勢60人以上いる。
紹介するだけでも、小林よしのり養老孟司香山リカ宮崎哲弥などのメディアに多く出ている著名人を載せ、井上順孝島薗進星野英紀末木文美士などの現代宗教学界の重鎮らも執筆し、また自身の研究室で今年学位を取られた先輩等、若手の論も目立つ。
テーマも現代の宗教問題を、ワイドショー的な事項(細木数子江原啓之)、流行を対象とした事項(『ダヴィンチコード』、ゲーム、ヨーガ)、もちろん古典的(継続的)な宗教問題(パレスチナ、オウム)も数々取り上げている。






なぜこのような本を作ったのか、巻頭の刊行にあたってを要約するとこうである。
「世界で起こる諸問題の本質には、多く宗教が絡んでいる。つまり、宗教のことがわからないと、問題の本質は見えてこない。それは、政治や科学、メディアの諸問題にまで含んでいるのである」
我々が宗教学を学ぶ意義はそこにある。
全ての問題の根底には、宗教性、民族(俗)性があるといっても過言ではない。
それらを抽出し、なぜ問題が起こったのかということを再考することが宗教学の本義である。
(と、私は思う)






さて、様々なテーマの中には、自身の研究にも大きく触れるものがあるのだが、それらを紹介し評したい。
〈論点〉の生命倫理の項では、島薗進はヒト胚の研究利用の是非を説き、世界各地域での反応の差異を問題とし、宗教文化の観点から生命倫理をグローバルに考察することを述べている。アジアの宗教文化から生命倫理を見直すとしているが、もはや臓器移植や代理母などの問題では、貧富の差によってアジア諸国は先進諸国による生命植民地となっている現状である。アジアの宗教文化だけでなく、経済的政治的な面からもグローバルに生命倫理を問い直すことは急務である。米本昌平は国際的政治的な観点から生命倫理を説き、科学の発展は経済的な利益をもたらすため、比較的後進国では生命科学を推進し、先進諸国(欧・米・日)では考え方は違えど宗教的民族的な倫理が働き動きは鈍いという。これを「3+1極化する世界」としている。




また、自身のもう一つのテーマである「教育においての宗教」についても、〈論点〉の一つ「宗教教育」を読んで、少し評してみる。宗教教育についてはもう少し詳しく述べたいので、今回は簡単に説明する。
現在、宗教教育は戦後教育の明暗(成功と失敗)の狭間に位置していると思われるため、推進派慎重派どちらも決め手が無いように思える。
推進派の意見は、現在のいじめや凶悪事件の低年齢化などの教育問題や、以前のオウム真理教を代表するようなカルト的な宗教教団に巻き込まれる実態などを踏まえて、宗教を知識としても情操することにしても教えていかなけらばならない、ということである。
慎重派の意見は、戦前(昭和前期)の国家神道による教育の防止であったり、現在の国家全体(政治も世論も)による右傾化としてのイデオロギーの中に組み込まれるものとして宗教教育があると考えている。
どちらも、立証するための論には及ばないのである。
ただ、今回の教育基本法改正が一つの起点となるのは間違いなく、これから10年20年はかかるだろうが、宗教教育はメジャーな分野になるだろう。






以上、興味のある人ない人も、現代人として必要な知識が詰まっているので一瞥して欲しい。